第1章 第2話 エオルゼアの自分

ミコッテの女性、エオルゼアの田中の姿 第1章

PCの画面に映るキャラクタークリエイトの画面を前に、田中はふと手を止めた。

「本当に、これでいいのか?」


目の前に映るのは、見慣れない自分――いや、まるで自分とは真逆の存在だった。
選んだのは女性ミコッテ。猫の耳と尾を揺らしながら、画面越しに輝く瞳でこちらを見つめてくる。髪は鮮やかなブルー、体型はスリムで、整ったスタイル。現実の自分とは、まるで違う。

「俺、40歳の独身男だぞ…」


田中は苦笑しながら、心の中で何度も繰り返していた。だが、なぜか手は止まらない。
顔の細かなパーツを調整し、髪型を変え、服装を選ぶたびに、少しずつそのキャラに愛着が湧いてくる。

「俺じゃない…けど、これも俺なんだ」

と、自分に言い聞かせるように。しかし、また不安が顔を出す。


「ネカマって言われたらどうする?」


田中は一瞬画面から目を逸らし、現実に引き戻されるような気持ちになる。SNSやゲーム内チャットで「男なのに女キャラかよ」と軽く言われるだけでも、何だか気まずい思いをするかもしれない。それが、怖い。

「いや、でも、ゲームなんだし、気楽にやればいいじゃないか」


田中は自分を説得するかのように、再びミコッテに目を戻す。
「普段の自分とは違う一面を試してみるのもいいかもしれない…」そう言いながら、ふと笑いがこぼれる。普段の自分なら絶対に選ばないようなキャラクターを作り上げている自分に、少しばかりの開放感を感じていた。

ミコッテの女性、エオルゼアの田中の姿

「ミャー」と言いながら、かわいらしいポーズをするミコッテを見て、

田中も小さく

「ミャー」

と真似してみる。


「…俺、何やってんだ?」


一瞬の恥ずかしさが込み上げてくるが、その後、自然と笑顔がこぼれた。確かにこれは自分じゃない。けれど、ゲームの中では、何か新しい自分を見つけたような気分だった。現実の自分とは違う存在を演じることが、こんなに心地よいとは思ってもみなかった。

「よし、これで決まりだ」


そう呟きながら、キャラの名前を入力する段階でふと視線が壊れたMacBook Proに移った。

それは、田中が長年愛用してきた相棒のようなPCだった。深夜まで仕事をしたり、ゲームをしたり、調べ物をしたり…気づけば一緒にいることが当たり前だった。キーボードのキーひとつひとつに、手に馴染んだ感触がまだ残っている。今は動かないが、それでも何度も助けられてきた、かけがえのない存在だ。

「…Mac Blue、これでいいか」


田中は、そんな愛着のあるMacBook Proにちなんだ名前を、なんとなく入力した。

画面に映し出された自分の新しい姿。恥ずかしさとワクワクが入り混じり、田中の胸は高鳴った。


「これが、俺…?」


田中はミコッテを見つめ、少し戸惑いながらも、ゲームの中での新しい自分に期待を感じていた。

そして、いよいよFFXIVのオープニングシーンが始まった。

画面いっぱいに広がる星空、そして映し出される巨大な月――ダラガブ。耳を突くような緊迫感あるBGMが流れ、物語が動き出す。そこには、数多くの冒険者たちがバハムートに挑む壮大な戦いが描かれていた。

「すげぇ…」


田中は思わず、息を呑んだ。荒れ狂う炎と共に、巨大なバハムートが目の前に迫りくる。まるで自分がその戦場にいるかのように、画面の向こうで何かが大きく動き出した。FFの伝統ともいえるドラマチックな演出が、田中の胸を一気に高鳴らせる。

シーンは移り変わり、光のクリスタルが輝き、次々と冒険者たちの姿が映し出される。壮大な戦闘の中でも、ひとりひとりが生き生きと動き、世界の中で重要な役割を担っている。まるで、自分もその一員になれるかのような気がしてきた。

「俺も、あの中に…」


田中はゲームの中に飛び込みたくなる気持ちを抑えられなかった。

やがて、画面に映る「新生エオルゼア」という文字。戦いに敗れた者たちが、その世界を再建し、新たな冒険を始めようとする姿に、田中は不思議な共感を覚えた。現実の世界では見つけられない何かが、このエオルゼアにはあるかもしれない。そう感じずにはいられなかった。

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